為景道場 泉龍院

 当院は、山号を医王山、寺号を泉龍院と称し、臼田町中小田切の雁峰城跡に連なる山裾に位置した、曹洞宗の寺です。寺域は後ろに赤松林の山を負い、前に小田切田園が開け、北には遠く浅間山を望む大変閑静な地で、境内は本堂、庫裡、衆寮、開夾山堂、鐘楼、山門、惣門などを配して、諸堂を廻廊にて連ね、総面積約三千二百坪であります。本尊に薬師瑠璃光如来、夾侍に日光・月光二菩薩を安置しています。

 ◎ 為景清春禅師の開創

 そもそも当院は永禄二年(西紀一五五九年)六月、上州後閑(現在の安中市)長源寺第九世為景清春禅師の開創にして、上信にわたり開かれた上州長伝寺・雲林寺、佐久町高野町桂霄寺と共に為景道場と称して、その第一とされています。開山より四百数十年、この間住職は二十一代を数え、法系が確実に継承されています。第四世風山文春和尚に至って、門風大いに開け、末寺末庵も多く開墓されたが、現在は仙岳寺のみ残しています。慶安二年八月徳川三代将軍家光公より御朱印十五石を賜りましたが、これは明治維新の際に上知となりました。
 また当院は天正二年(西紀一五七四年)八月と明和元年(西紀一七六四年)十二月の二回火災に罹り、明和四年以来本堂をはじめ他の諸堂を逐次再建し、伽藍什器など大いに整備され、今日に至っています。

 ◎ 泉龍院の寺宝

 次に当院の寺宝の一部を紹介しておきます。惣門に掲げた加賀大乗寺の禅僧月舟宋胡筆になる「医王山」の山号額、鷹野蓼岳画伯筆になる「奏楽の天女像を配した大天蓋」と「うなだれた黒猫の加わった世に珍しい釈迦涅槃像の大幅」、卍山道白筆になる「竜天護法善神・白山妙理権現の書幅」など。
 わが宗祖道元禅師は永平寺の自然を「春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷しかりけり」と詠じていますが、当院も春は境内に咲き乱れる桜花が池水に映じてさながら極楽浄土を髣髴とさせ、夏は裏山の赤松の中より郭公や杜鵑の声を聞きながら涼を追い、秋は松の翠の間に全山錦を織りなして良夜の明月を鑑賞し、冬は満目白銀と化した庭樹の趣きを味得できる、まことに四季それぞれの風物は道元禅師の歌ならではの禅味を深めてやまないものがあり、真に為景道場の歴史はいよいよ道心を澄ませるものがあります。